登別市若山町2の浅野清さん(70)=同人誌「ざいん」同人=が、「遥かなる潮騒―樺太逃避行」を出版した。樺太(現サハリン)での悲劇を織り交ぜ、終戦直後に母子2人が本土に引き揚げるまでの過程を、ドキュメンタリータッチに描いた力作。「約60年ひきずってきた戦争体験の思いに、ひと区切りつけました」と感慨を新たにしている。
古希にして初めて長編小説を書き上げた。「市民文芸のぼりべつ」に5年間にわたって執筆した作品を、単行本とするに当たり主人公の名前を変更するなど、大幅に加筆、書き直した。
物語は樺太西海岸の塔路町の炭鉱街に住む福岡康子と息子の純一が主人公。時は昭和20年8月、終戦前後。ソ連軍上陸の情報、切り込み隊の組織、医師家族の毒死、集団自決、機銃掃射を受けながらの命がけの逃避行―など、物語は実際に起きた実話、悲惨な出来事、歴史的事実を、文献などで丹念に調べながら、フィクションとして描いた。
浅野さんは紋別市生まれ。昭和16年、5歳の時に樺太に行き、小学校5年の時に引き揚げてきた。「戦争という悲惨で無益で、愚かな行為のために、その犠牲になる庶民の姿を背伸びせず、等身大の視点で描いてみたかった」(あとがき)という。
作品は第27回新風舎出版賞フィクション部門の奨励賞を受賞。「敗戦の混乱の中、庶民がどのようにして生き延びたのか、著者自身の経験を存分に生かして詳細につづり、資料的価値がある多くの悲劇的挿話からは、戦争の最大の犠牲者はつねに女性や子供といった弱者だという現実を改めて知らされる」といった選評も寄せられた。
元登別市富岸小学校校長、元若草幼稚園長。宮沢賢治学会イーハトーブセンター会員、日本児童文学者協会会員、室蘭文芸協会会員。評論「ある異邦人の放浪記」で第19回室蘭文芸賞佳作賞・室蘭民報社文芸賞佳作賞、評論「アメリカ放浪の芥川賞作家の誕生」で第92回コスモス文学評論部門新人賞。童話の執筆も続けている。
「当時はその日その日の生活に追われ、生きるのに精いっぱいだった」と振り返りながらも、現在、続編を執筆中。
四百字詰め原稿用紙230枚の力作で、定価は1300円(税込み)。200冊印刷した。室蘭、登別のブックメイトまるぜんなどで販売している。問い合わせは浅野さん(電話0143・85局9508番)へ。
|